本研究では,名古屋大都市圏郊外における中核都市である一宮市での都市内居住地移動を,電話帳から得られた移動データによって分析した.距離帯による分析から,一宮市内での移動の大きな流れは中心部から周辺郊外地域への流出であり,さらに中心部での残留世帯層と中心部からの流出世帯層の存在が明らかにされた.また,都市内移動によって引き起こされる中心部での世帯減は,市外からの流入によって相殺されると推定された.
これらの点を問題として,中心部を発地とする移動者を対象としてアンケート調査を行った.その結果,中心部は職業的理由による市外からの流入者を多く受け入れていることが明らかになり,住宅事情を主要な移動理由とする都市内移動とは移動理由が大きく異なることが判明した.そして,中心部を発地とする都市内移動は,「世帯主が30才台で子供を伴い,住宅事情を理由とした借家から一戸建て持ち家への移動」が典型的であることが明らかになった.さらに,中心部での残留世帯層と中心部から郊外への流出世帯層の差異を数量化理論Ⅱ類を用いて分析した結果,移動後の住居形態,前住居での居住年数,移動前の住居形態が両者を分ける要因として重要であると判断された.
これらの結果は渡辺(1978)の指摘したような住み替えによる段階的移動が,一宮市のような大都市圏郊外の中核都市においても存在することを示している.そして,名古屋大都市圏レベルでの住み替えを考慮に入れると,一宮市の郊外地域は一宮市中心部の郊外であると同時に,名古屋市の郊外でもあり,双方からの流出人口の受け入れ地として機能していると言える.
居住地移動にとって通勤距離が最大の制約条件(山田,1992)と言われているが,地価などの影響から世帯主の就業地の都市規模が大きいほど,住み替えによる遠心的移動に際して移動距離が増大する傾向があり,移動距離が大きいほど世帯構成員の日常生活の変化に与える影響は大きいと考えられる.例えば,一宮市内で完結する居住地移動と,名古屋大都市圏全域にわたる居住地移動とでは,そうした影響の程度は異なったものとなると思われ,今後は居住地移動に伴う世帯構成員の生活空間の変化に関しても調査する必要があると考えられる.
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